ウォルコット教授は、ケロッグ経営大学院(以下、ケロッグ)で、「イノベーション&アントレプレナーシップ」で教鞭をとり、「KIN(ケロッグ・イノベーション・ネットワーク、“キン”と発音する)」の共同創設者兼エグゼクティブ・ディレクターを務めています。
また、2010年12月、日本経済新聞出版社より「社内起業成長戦略 連続的イノベーションで強い企業を目指せ」を出版され、1月28日には東京のアカデミーヒルズで講演をされました。
本著を生み出した知のネットワーク:KINとは
そもそも、KIN(”キン“)って何でしょうか?
KINは、ケロッグでも絶大な人気を誇るモハンバー・ソーニ―教授(マーケティング)と、ウォルコット教授(イノベーション)がリーダーシップを発揮して、2003年に設立した組織です。その目的は、世界の多国籍企業、NPO、政府と共に、“持続可能なイノベーションを実現すること。
アメリカは産学連携が進んでいて、KINもその一つ。シスコ、IBM、デュポン、フェデックス、カーギル、マイクロソフト、モトローラなど、皆さんもよくご存じの企業が参加メンバーです。さらに、ケロッグ伝説の教授、「フィリップ・コトラー(Philip Kotler)」がスピーカーとしてKINを支援していることも注目に値します。
マーケティングを勉強されている方の間では、コトラー教授の熱烈なファンが多いのは誰もが知っています。コトラー教授は、多くのビジネススクール・大学での授業で使われている「マーケティング・マネジメント」の著者なのです。今でも人気のこの本、初版から40年以上たっているなんて信じられませんね。
ソーニ―教授やコトラー教授など、そうそうたる人物が支援しているKIN。
そんなKINの活動をリードしているのがウォルコット教授なのです。
鳥山正博さんの監訳に見る本著の重要性とは
左から、ケイティ堀内、ウォルコット教授、奥山昭博教授、鳥山正博さん
さて、監訳者である鳥山正博さん。金融、製薬、IT、エンターテイメントと、幅広い分野を対象としたマーケティング戦略、・組織が専門であり、常に最先端の仕事に関わっておられます。多忙にもかかわらず、2009年に東京工業大博士号を取得、そして、現在は立命館大学大学院 経営管理研究科の教授です。
一度、鳥山さんの授業に参加しました。非常にダイナミックで、その空気は、「互いの才能を引き出し、チームとして最高の結果を出す」というものでした。
まさに、ケロッグのリーダーシップにおけるカルチャーです(ほとんどの生徒が身を乗り出して聞いており、発言を争うように参加!)。興味がある方は、一度、立命館大学の授業に参加することをお奨めします!
以下、鳥山さんの監訳から抜粋した一文を掲載いたしました。これを読むと、本書が書かれた背景や、その重要性を理解することができるでしょう。
以下、監訳より抜粋:
「Corporate Entrepreneurship (企業内起業家)という言葉が、Oxymoron (撞着語法・形容矛盾)であると枕詞のように言われるくらい、米国においてはイノベーションとはアントレプレナーによって生み出されるという通念が強い。
しかし、実は大企業こそがイノベーションの担い手である、いや、大企業こそがイノベーションの主役であるべきだ、というのが本書の最大の主張である。
ウォルコットとレピッツは、KINという大企業のイノベーション研究のネットワークを組織し、対話を重ねながら実証的な研究を行ってきた。その集大成が本書であり、これを読むと2000年代の米国の大企業がいかにイノベーションにあらためて向き合ってきたかがわかるであろう。
その意味で、日本の大企業は今こそ、本書に学び社内で本格的なイノベーションに取り組むべきなのである」。
大企業による売上高が過半数を占める日本経済においてこそ、イノベーションが大事。
日本発展の鍵といっても過言ではないのでしょうね。
“イノベーション・レーダー”、その威力とは?
ウォルコット教授が最重要と言われたコンセプト、それは『イノベーション・レーダー』です。
イノベーション・レーダー(Innovation Radar)とは一体何なのでしょうか?
まずウォルコット教授のイノベーションの定義を紹介しましょう;
Innovation is about more than technologies or products.
The business system provides a complete view of where to look for innovative opportunities.
(訳:イノベーションは、技術や製品以上のものである。ビジネス・システム全体を俯瞰することによって、イノベーションを起こすための全体的な視点が与えられる)
「ビジネス・システム全体」を俯瞰するのに役立つのが、「イノベーション・レーダー」というツールなのです。
イノベーション・レーダーは、企業内のイノベーション事業を創出し、成功させるための重要なフレームワークであり、1.顧客(誰に)、2.顧客体験、3.価値獲得、4.プロセス、5.組織 など、全部で12の領域に分けて示しています。
このツールを使えば、新規事業をデザインしたり、既存事業のクリエイティブ性を評価することができます。いわゆる“Innovation Performance“の測定に最適なのです。
講演で面白かったのが、アパレル企業で成功しているZARAと、GAP社の比較でした。
通常、アパレル企業は、良いイメージを創出するために、「広告」に多額の予算を費やしますが、GAPもその戦略を採用した企業でした。
一方、ZARAは、広告にはほとんどお金をかけず、口コミを活用し、業界とまったく逆のアプローチをとり、多品種小ロット、圧倒的に短い納期、を実行しました。
結果、ZARAは、製品回転率が高く、粗利率においてはGAPを上回ったのです。
このケースでは、製品だけではなく、ビジネス・システムの差別化が“鍵”であった、ということでした。
何と、ウォルコット教授の映像をYouTubeで発見しました。ケラー経営大学院でのインタビューで、イノベーション・レーダーについても説明されています(英語)。
リーダーシップと、イノベーション的発想について
ここでは詳しく説明しませんが、本書では、ケロッグの得意中の得意である「リーダーシップ」についても重要な示唆を与えてくれています。
イノベーションを実践し、育てていくためには、CEO、上級役員、および、プロジェクトのリーダー、それぞれ、違った形での「リーダーシップ」が求められています。BP、グーグル、バクスターなどの豊富な企業の実例を交え、わかりやすくまとめられています。
プロジェクト・リーダーを経験した人であれば、本書がいかに現実的な視点で書かれているかがわかるでしょう(トップのコミットメント、予算繰りなど、苦労はつきません?)。
最後に、、、
イノベーション的発想を得るための考え方を紹介し、締めくくりましょう。
Knowing the questions enhances positive serendipity. Otherwise, it’s all just luck.
(訳:自分の課題や、何を求めているかが明確になれば、ポジティブなセレンディピティを引き寄せられる。さもなければ、全ては運しだいということになってしまう)
教授によると、認知心理学の分野では、「人々は、自分が求めているものしか見ない」という実験結果がでているそうです。
自分が求めている、探しているものが、不明確であれば、日々、膨大なデーターを分析していても、解が目の前を通り過ぎて行っても、気づかない。
しかし、自分に与えられている「課題」や、求めているものが何であるかが明確であれば、解を導き出せる確率が高まる。
ウォルコット教授は、爽やかな笑顔と共に、
「Thank you for listening, and Go Innovative!」
(訳:今日は有難う。さあ、イノベーションを起こそう!)
という言葉で、講演を終えました。
いかがでしょうか。
これからの日本に大切な事、それは、包括的に「クリエイティブ」になることかなと思います。
つまり、「高品質な製品やサービス」へのこだわりだけで、顧客満足を勝ち得た時代は終わったという事です。いまこそ、製品一辺倒の考えから脱却して、製品を含めたビジネス・システム全てを俯瞰した形で、顧客価値を創造する事が求められるでしょう。
ウォルコット教授が提唱する“イノベーション・レーダー”や“KIN”について、詳しく知りたい方は、ぜひ、「社内起業成長戦略」をお読みください。イノベーションに関する黄金の知識が得られるでしょう。
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関連サイト
アカデミーヒルズ ウォルコット教授の紹介
http://www.academyhills.com/school/personal/tqe2it00000dsndf.html
KINについて(英語)
http://www.kinglobal.org/about.php
野村総合研究所サイト
http://www.nri.co.jp/
立命館大学 教授紹介サイト
http://www.ritsumei.ac.jp/mba/faculty/detail.html/?id=9
著書「社内起業成長戦略」
http://www.nikkeibook.com/book_detail/60508/