近代マーケティングの父 フィリップ・コトラー教授の知られざる魅力

グローバル・リーダーの横顔
vol.25小田原 浩 ③
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vol.24稲葉 良睍 ②
vol.24稲葉 良睍 ①
vol.23ジャスティン・クレイグ ②
vol.23ジャスティン・クレイグ ①
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Interview グローバル・リーダーの横顔

ビジネス界で活躍しているグローバル・リーダーの横顔、ビジネスの最先端情報やリーダーシップの真髄に触れるインタビュー。

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赤、黒、ピンク-様々な色のランドセルを背負い、通学する無邪気な子供たち。無限の可能性を持つ彼らの将来は、希望に満ちているはずである。しかし現実は厳しく、何か良い方法はないかと試行錯誤を繰り返し、子育てに悩んでいる親御さんは多いのではないだろうか。小学生の子を持つ筆者も、その一人である。

少子高齢化、デジタルの発展、経済格差の広がりといった急激な時代の変化の中で、若者が将来に不安を感じたり、自分への自信を失い、決められた事の中でしかやれないといった事が社会問題になりつつある。

日本の将来を担う子供や若者たちが、活き活きと活躍するために、なにが必要なのか、そのために企業は何ができるのだろうか? その打開策のヒントが得られることを願い、ケロッグの卒業生による特別対談を企画した。

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一人目は、世界24カ所に展開しているグローバル企業「キッザニア」創業者のハビエル・ロペス氏だ。エンターテインメントと教育を融合させ、企業との巧みなパートナーシップによって、リアルな職業体験を提供している。子供サイズの街並みや「キッゾ」という専用通貨、経済のミニチュア化を行うなど、その斬新な発想と子供だけが利用できる特別な空間は、ディズニーランドのような感動を生んでいる。

二人目は、80年の歴史を有するグローバル企業、YKK株式会社 代表取締役会長CEO吉田忠裕氏。YKKのファスナーは、世界トップブランドであることは周知の事実であろう。また企業理念を重視する同社は、「善の巡環~ 他人の利益を図らずして自らの繁栄はない~」というYKK精神を支柱に、ビジネスの成長と社会への貢献を世界レベルで実践している。

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このお二人には共通点が多い。まず、どちらもケロッグ経営大学院でMBAを取得している。また、貧困問題など様々な社会問題の解決を目指す「ソーシャルマーケティング」を提唱した現代マーケティングの父、フィリップ・コトラー教授からマーケティングを学んだ(実際、コトラー教授は、両企業を優れたロールモデルとして高く評価している)。

そして、お二人には「企業の力で社会をより良くしたい」という強い想いがある。

今回、「ビジネスが社会をより良くするためにできる事とは何か?」、「子供の教育や未来にとって大切なことは何か?」というテーマで対談していただいた。本記事ではハビエル・ロペス氏、次回は、吉田忠裕会長と2回シリーズで、彼らのビジネスに込めた想いに迫ってみたい。

創業者が語った「キッザニア」に込めた想い

日本のキッザニアは、開園前から長蛇の列をなし、連日3歳~15歳の子供たちでにぎわっている。6割、いや7割とも噂される高いリピーター率を誇るビジネスとして成功したロペス氏。彼は、どのような思いを込めてキッザニアを創業したのだろうか?

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「子供は、働く意味や、お金の価値について、しっかりと理解できていません。
例えば、親から『仕事に行って来るね』と言われても、どこに何をする為なのか分かりません。また、お金が無いときは、『4桁のパスワードを押せば、すぐお金を引き出せる』と考えるでしょう。お金を引き出すことは簡単ですが、なぜATMにお金が入っていたのか子供は知りません。その仕組みを理解するためには、まず仕事を通じて収入を得てから、銀行口座を開設し、現金を預ける必要があります。

また、子供は、安いものと高いものの区別しかついていません。キッザニアでは、通貨(キッゾ)を使って買い物ができますが、何か大きな物が欲しいとなると、たくさん働いて、たくさん稼ぐ必要があります。このようなロールプレイを通じて、『将来暮らしを良くするためには、働かなければならない』という事を教えています。

最近できたキッザニアでは、大学を設立しています。例えば、医療を学び、試験に合格すると、大卒者としてキッザニアで働き、より高い収入が得られます。吉田さんや私が、ケロッグでMBAを取得したように、大学院の学位を得ることもできます。さらに、子供たちは、キッゾを使って、恵まれない子供たちへ寄付をしたり、社会へお返し(=Give Back)する事も可能です。」

これには驚嘆した。ロペス氏が創設したキッザニアは、単なる子供向け職業体験パークのプログラムではない。彼は、子供たちが活き活きと活躍する未来の姿を思い描き、「労働、教育、経済」といった事を学べるようサービス設計していたのだ。

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そのために彼がこだわり、目指していることは、意外なことだった。

「今の時代、技術の発展はめざましく、状況は刻々と変化しています。そのため、現在の子供たちが大人になった時に就く職業の50%は、まだ存在しないと言われています。よって、未来の仕事の一部しか子供たちに教えられないのです。

だからこそ、キッザニアでは、どこへ行っても必要とされる普遍的な職業スキル、例えば、『クリティカル・シンキング』、『コミュニケーション』、『リーダーシップ』、『芸術』などが習得できるよう配慮しています。」

「芸術」は別として、これらのスキルは、アメリカのビジネス・スクールで習得できるものではないか。なぜなら、一般的なビジネス・スクールでは、ファイナンス、会計、ミクロ経済といった数字系の授業がある一方、リーダーシップ、企業組織論、交渉といった「人への理解」なしには単位がとれない授業も多いからだ。

ロペス氏によると、最近のキッザニアには、プログラミング、アニメーション・スタジオ、3Dプリンティングも加えられ、さらに事業を立ち上げたいというニーズに応えるために、起業家養成プログラムも開発しているという。

キッザニアは、「遊び」を通じて、ビジネススクールで学ぶような普遍的なスキルを体験できる、夢のワンダーランドといえよう。

ケロッグでの学びを活かす ― Win-Winのビジネスモデル

Win-Winの考え方は、ロペス氏が特に重要視するビジネスの根幹だ。企業は、会社の売上や利益といった数字だけを目的にせず、そこで働く従業員はもちろん、社会全体へのWinをもたらすべきであるという。この考えは、次回ご登場いただくYKKの吉田会長と共通するものがある。そしてその根底には、ケロッグの教育がベースとなっているのだ。

「わたしは、母国メキシコで1年間ビジネス・スクールに通った後に、ケロッグで2年学びましたので、合計で3年間MBA教育を受けたことになります。特にケロッグでは、2つの大きなことを学びました。一つ目は、『組織行動学』。ビジネスにおいて『人』や『チーム』が、いかに大事であるかという事を学びました。

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二つ目は、『ネゴシエーション(交渉)』。ビジネスの交渉で重要なのは、自分と相手が互いにWin-Winの関係であるという事を学びました。キッザニアでは、それをさらに広げて、Win-Win-Win-Win(=全てのステークホルダーへのWin)を実践しています。

まず、子供たちにとっては、彼らが大好きな「ロールプレイング(ごっこ遊び)」を、よりリアルな形で提供しています。また、保護者にとっては、子供たちが、教育や、価値観、そして職業スキルを、安全で楽しい環境の下で身に付ける事ができます。そして、参加企業やスポンサーにとって、自社の商品やサービスを通じた顧客との直接接点を持つことができます。さらに、キッザニアを誘致するショッピングセンターは、他と差別化できる大変魅力的なテナントとなり、投資家にとっても良いビジネスとなります。フランチャイズ加盟各社には、各種ツールを提供しています。

さらに私は、子供たちが、自然に高齢者や障がい者の方と触れあい、交流してほしいと願っています。メキシコでは、障がい者の家族は本人を家に閉じ込めて、あまり表に出そうとしません。他人の目に触れさせたくないのでしょうが、これは良いこととは到底思えません。

ですから、キッザニアでは高齢者や障害者の方を積極的に雇用しています(現在、メキシコにおいて、約2,000人の従業員・協力者のおよそ10%が高齢者)。またメキシコでは、障害者の方からの入場料を無料にするなどの工夫をしています。」

企業の為だけではない。社員やお客様、パートナーや、社会的弱者まで、あらゆる人々の『幸福』を願う、キッザニアのビジネスモデルには、ロペス氏のケロッグでの学びが活かされていた。

スローガン「よりよい世界のために準備をする」とは?

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最後に、ロペス氏が、「より良い社会のために目指していること」、「ビジネスと社会貢献の関係」について語った内容を紹介しよう。

「この世で一番の教育者、教育の場は、間違いなく家庭であり、将来もそうあるべきだと考えます。次に、大切な場として、学校があります。キッザニアは、それらと競争するのではなく、楽しく、役に立つ体験の場を提供し、家庭や学校を補完する役割を担いたいのです。

私達のスローガンは『Get ready for a better world―より良い世界のために準備する』であり、知識の習得とスキルの構築、そして、正しい価値観を学ぶことで、より良い将来が生まれると確信しています。」

「企業にとって、業績をあげることは必要だけれど、長期目標として、社会に対して良いことをする必要性もあると思います。YKKは、このために大きな努力をしていますが、そんな企業はまだ少数派です。

しかし、10年後にはそれが規範となり、それができない企業は排除されていくでしょう。キッザニアはまだ若く、成長過程にある会社ですが、より良い世界を構築することにコミットしています。」

国際NGO「ルーム・トゥ・リード(Room to Read)」創設者のジョン・ウッド氏は、以前のインタビューで、発展途上国の子供たちに図書館を作り、ビジネスの力で世界から貧困をなくす夢について語ってくれた。ロペス氏は、キッザニアを通じて、子供たちに正しい職業観を伝え、よりよい世界の実現に尽力している。

このように、ケロッグの卒業生たちは、国も手法も違う自社のビジネスを通じ、社会を変える大波を起こそうとしている。そして、キッザニアのスローガンは、このトップ対談のもう一人の主役YKK吉田会長へと通じていく。

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取材・文責:ケイティ堀内/H&K グローバル・コネクションズ
グローバル思考の人と組織の魅力を伝えるブランド・プロデュース会社
ハビエル・ロペス プロフィール
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1964年メキシコシティ生まれ。メキシコのアナワク大学にて経営学部を卒業後、IPADEビジネススクールにて修士号を、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBAを取得。1997年にキッザニアを設立、ロールプレイングを通したエンターテインメントと教育を組み合わせたコンセプトで成功を収める。キッザニアはコミュニティへの強い連帯感によって作られ、独創性、独立心、責任感、結束といった価値に親しむ安全な場所を作るというアイデアから生まれた。最初のキッザニアを1999年メキシコシティにオープンし、現在19ヶ国・24ヶ所で展開している。

メキシコ本社 http://www.kidzania.com
キッザニア東京・甲子園 http://www.kidzania.jp

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