世界が多様化し、いま、グローバル展開が急激に進んでいる。日本人プロフェショナルにとって、急務とされているスキルが、“リーダーシップ力”である。
男女といった性別だけでなく、職業や産業、国や宗教の壁をこえるだけでなく、個人の価値観の差もあって、多様化はますます進むばかりだ。チームワークが大事とはわかっていても、ときにはヒートアップしてしまうのが現場である。リーダーはどうあるべきなのだろうか?
連載の最終回、小田原さんが実践する“リーダーの極意”についてお伝えしよう。そして新会長としてKCJをどうリードしていくのか、今後の展望についても興味深い話を語ってくれた。
相手に「自分は特別」と感じてもらう
「例えば、100人の組織があったとして その中にサブリーダーが数人いるとします。私は、この数人のサブリーダー達とまず関係を作ることを大切にしています。それが上手くいくと、その先に拡がっていくからです」
“関係を作る”とあるが 具体的にはどうするのだろうか?
「相手に『この人にとって、自分は特別なんだ』と思ってもらえるように、対応することが重要です。そのためには、まず相手について、より深く理解しなければならない。
しかし、よく知らない相手にいきなり『あなたについて教えてください』、と言っても、教えてくれるはずもない。
だから自分の場合は、相手に自分の本音を先に話すようにしています」
小田原さんによると、“タイミング”も重要だという。
まだ関係ができていないまま本音を話すと、「誰にでも話しているんだろう」と誤解されてしまう。コミュニケーションを重ねて、ある程度、人間関係ができたところで本音を話すと、「自分だから心を許して話してくれるんだな」と思ってもらえるという。
個々の思いを、見えないサインで読みとる
率直に本音を語るのも、相手によっては、逆に働く場合がある。
「だんだんシニアな立場になってくると、メール1本の書き方も気を付けないと、後輩をビビらせてしまうこともある。だから、本音で話してもらうためにも、安全な環境を作ってあげることが大事ですね。
人間って見事なくらい、考えや感情が顔にでるんです。自分はそれをしっかりと見ています。表情だとか声のトーンだとか。
例えば、社内の打合せで、若い後輩にアサインメントを与えて、『わかりました』という返事があったとします。同じ言葉でも、若干、声に自信がない『わかりました』もあるわけです」
そんなとき、小田原さんはどうするのだろうか?
「ちょっとおかしいな、と思ったら、ミーティング後に1本のメールを入れて、『さっきの件、大丈夫? もう1回話そうか』とフォローします。自分の場合、気にしすぎることも多いので、しつこくなり過ぎないようにしています」
相手の本音を聞き出すにも、個別で丁寧なコミュニケーションによる関係づくりが大切だ。そして、このセオリーは、海外でも同じように大事だという。
チームのリーダーは一人ではない
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント)で、得意分野が異なる人が集まったチームの強さを学んだ小田原さんは、リーダーは一人ではないと語る。
「その時々で必要なスキルや知識も違う、私は、色々なリーダーがいて良いと思っています。マッキンゼーはチームワークを非常に重んじる組織で、ケロッグと似ている部分があり、社員一人一人が、自らをリーダーだと思って仕事をしています。」
つまり、マッキンゼーでは、クライアントの課題に応じて、課題解決に最適なスキルを持つメンバーがプロジェクトのリーダーを担い、さまざまな得意分野を持つチームでサポートするというわけだ。
リーダーの役割は“逆張り”
「いろいろなリーダーに会ってきた中で、『この人はすごいなあ』という人は、緊急事態に逆に堂々としてらっしゃいますね」
良きリーダーは、トラブルが発生した時に慌てふためず、冷静に、みんなを落ち着かせられる。逆に状況が深刻であるにも関わらず、みんなの危機感が薄いときは、あえて怒ったり、厳しいことを言って、目を覚まさせる。
「リーダーの役割は、常に逆張りだと思いますね。人と違うことをする、そこに付加価値が生まれます」
本当のリーダーはうまく回っているものには手は出さない。自分がいなくても回るようにして、自分の分身を作り、その人に後は任せて、自分は次に行くものだ。
「ケロッグ」は魔法の言葉―世界のネットワークとつながる
「ケロッグは卒業しても関係が続く。日本人もそうですが、海外の同期クラスの友人が日本に来ると、連絡くれるんですよ。それで飲みに行ったりしています。
マッキンゼー内にも、ケロッグ卒業生が世界中にいますよ。ケロッグ卒業生というだけで、お互い打ち解けたりしますから、『ケロッグ』というのは魔法の言葉だな、と思います」
さらに小田原さんは続けた。
「ケロッグは、タテやヨコの繋がりが強いので、ケロッグの卒業生と伝えるだけで、例えば、YKKの会長だった吉田さんや、エーザイの社長である内藤さん、といったトップリーダー達とも交流を持つことができました」
ケロッグにはGIM(Global Initiatives in Management)という海外地域研究プログラムがある。学生がリーダーとしてカリキュラム作成し、春休みに2週間、海外の対象地域にて研修を受ける。
小田原さんは、エジプト、ヨルダン イスラエルの三か国を訪問したが、エジプトの石油省大臣や、ヨルダンの首相、イスラエルの大統領など、錚々たる人たちに会うことができた。ここでも「ケロッグ」の海外ネットワークが役立ったという。
「ケロッグでは、いろいろ人と出会いやすいですね。卒業後もこのネットワークが広がっていく感覚が凄くあるんですよ。これがケロッグMBAの凄いところです」
KCJのこれから
ケロッグ留学時代や、マッキンゼーでも、常にリーダーとして成長し、成果をあげてきた小田原さん。2019年からは、KCJ(ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン)の新会長に就任した。リーダーとして、KCJを今後どうひっぱっていくのか?
「同窓会は、まずコミュニティが強くなきゃいけないと思うんですよ。
『強い』というのは、シニアからジュニアまで、世代を跨いで結びつきが強いことです」
小田原さんは、ある活動を考えている。
「今後の活動としては、ケロッグの卒業生に役立つことと、世の中のために役立つことがあります。最初は前者を考えていました。たとえば自分が情報を欲しい時に、同窓会の他のメンバーから情報を教えてもらえたり……。
ところがケロッグの卒業生は、自分が助けてもらうというより、他人のために何かしたいと考える「お人好し」が多いんですよ。ですから、まずは年末に開催される総会で、KCJの仲間でいろんな議論をして、何か世の中に役立つことができたらいいなと、考えています」
インタビュー(1)、(2)でも伝えたが、小田原さんは「人見知り」で、ネットワーキングのパーティーなどは大の苦手だ。それでも、ケロッグでは、常にグローバルな環境を求め、ありとあらゆるプロジェクトやイベントでリーダーを務めた。
その結果、短期間でグローバル環境下でのリーダーシップ力を鍛え、マッキンゼーという最強の経営コンサルティング会社で、パートナーとして活躍している。
そんな小田原さんを新会長として迎えたKCJ。若い世代が中心となり、ユニークな試みや活動も加わって、新たなフェーズを迎えている。これからのKCJが楽しみだ。
小田原 浩(おだわら ひろし) プロフィール
自動車、重工業OEMメーカー等、数多くのクライアント企業における組織変革の支援を行う。企業の成長戦略策定から現場におけるオペレーション改善、マーケティング&セールスのケーパビリティ強化まで、幅広い分野に関し専門的知見を有する。
近年は、自動車セクターにおいて、企業に対し業績総合診断等を実施し、日本市場における成長戦略を策定。また、グローバル収益管理プログラム支援を目的としたPMOを設立し、プライシング、ディーラー管理等、各機能の改善可能性の評価を行い、鍵となる戦略を立案している。
重工業セクターにおいては、製品プラットフォームに関するグローバル戦略を策定、包括的な目標原価企画によるアプローチを導入し、グローバル規模の調達最適化プログラムを設計、1億ドル規模のコスト削減に成功した。また、新工場の設計最適化および既存設備の生産性向上を目的とした設備投資管理プログラムを立ち上げ、約1.1億ドルの設備投資関連費用の削減を実現した。
先端産業グループの中核的メンバーであり、調達および商品設計に焦点を当てたオペレーション関連プロジェクトを指揮している。また、日本企業のグローバル展開支援にも深く関与しており、日本企業の東南アジア市場進出を支援するマッキンゼーの日本・東南アジアブリッジイニシアチブを統括している。
また、マッキンゼーの人事採用および人材開発にも携わっており、東京オフィスのビジネスアナリスト採用プロジェクトの責任者も務める。
学歴
ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント)修士課程修了(MBA)
東京大学経済学部卒業