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グローバル・リーダーの横顔
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Interview グローバル・リーダーの横顔

ビジネス界で活躍しているグローバル・リーダーの横顔、ビジネスの最先端情報やリーダーシップの真髄に触れるインタビュー。

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 「天職」、 「自分が生きる意味」、 「神からの召し」-。 さまざまな訳がある“Calling”という言葉、読者の皆さんは聞いたことがあるだろうか? 私達は、あらゆる面において、とにもかくにも自分の”プラン”を立て、実行しようとする。人生とは、自分がコントロールできるものなのか? あるいは、日々起きる出来事は、自分の意思を超えた「何か」があなたに語りかけた結果なのか?―。

 今回ご紹介するランドバーグ史枝さんは、ケロッグ留学中に、“Calling”という言葉に出会い、さらにあの痛ましい事件9・11テロに遭遇したことで、人生の価値観を大きく変化させた女性である。

 ランドバーグさんは、ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院を2001年に卒業。ケロッグで現在の夫に出会い、シリコンバレーに移住。小さなベンチャー企業等で働いている中、ITの巨人グーグル社からヘッドハンティングされた。

 現在は、グーグルのアメリカ本社で、コンシューマーケア・オペレーション統括部長として、世界市場を対象に100名以上の部隊を率いている。シリコンバレーを拠点とし、日本という枠を超えて、世界をかけめぐるグーグル新進気鋭のリーダーである。

1. ”Fearless”-恐れを知らない 問題解決のプロ

ランドバーグさんが本社勤務へ移動となった際の送別会にて

ランドバーグさんが本社勤務へ移動となった際の送別会にて

 検索エンジン業界の最大手であるグーグルは、スタンフォード大学博士過程に在籍していたラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンによって、1998年に創業。いまや、グーグルを含むアルファベットという組織として、自動車、バイオ、スマートインフラなどに参入し、5万人以上の従業員数を誇る大企業だ。MBAホルダーやIT系人材の転職企業先ナンバー1に君臨するほどの人気企業である。

 そんなグーグル社内には世界の精鋭が集まっているといえよう。しかし、ランドバーグさんは競争の激しい同社において、わずか3年で、アジア圏を統括するポジションから、世界全体の統括責任者へと昇進した。まず、現在のご自身のリーダーとしての役割を伺った。

 「グーグルは常に斬新なサービスを提供していますから、さまざまな問題が発生し続けています。私にとって、リーダーシップとは、業務上で起こるさまざまな問題の解決です。問題のないところに私は必要ないと考えています」。

 さらに、問題解決の要とは、「問題の早期発見と共有」だと語ってくれた。

 「私たちがサポートしているのは、“数億人”ものグーグルのユーザーです。そんな中で、個人レベルが頑張って残業したところで、出来ることは限りがあります。だからこそ、全員が最大の力を出し合って、仕組みをつくり、スケールアップを目指さなければならない。そのためには、早く問題を見つけ出し、共有する事が大事です。」

 また、彼女の独特なリーダーシップ・スタイルについても聞かせてくれた。それは一言でいうなら、「Fearless (恐れない)」である。

 「自分の事を客観的に伝えるのはとても難しいですが、あえていうなら、わたしは、自分が他人にどう良く見えるかなんて全く気にしていません。要はチームとして成功すればいいのです。また、問題は、それが得意な人、最適な人が解けば良いと思います。」

 「お客様にとって最も正しい結論にたどりつきたいだけです。私の意見に反対していい。大事なのは、とことん話し合う事。だから、トップダウンなんてありえないし、私の面子なんて関係ない。ついでに言うと、チーム全員の夫々の面子も関係ない(笑)。」

 この話を聞くと、彼女は機械的で無味乾燥な人のように聞こえるかもしれないが、そうではない。実は、常に周囲に配慮を怠らず、深い洞察力と共感力を持ち合わせている人なのである。ランドバーグさんを今のポジションに抜擢した上司は、彼女の強みを以下のように表現した。

「Clarity backed up by amazing empathy.」
(人並みはずれた共感力を伴った、問題を明確にする力がある)

これは、問題解決能力の高さに加えて、周囲の人への配慮を怠らず、優れたリーダーシップを率直に表現した言葉だと言えるだろう。

現在のランドバーグさんの部隊「コンシューマーケア gTech」のメンバーと。世界の優秀なメンバー100名以上を率いている

現在のランドバーグさんの部隊「コンシューマーケア gTech」のメンバーと。世界の優秀なメンバー100名以上を率いている

2. オプラ・ウィンフリーが語った、リーダーシップの神髄―“Calling”

YouTube:「What Oprah Knows for Sure About Finding Your Calling」

 ランドバーグさんが留学を志したのは、新卒で勤務したブーズ・アレン・アンド・ハミルトン社にいた時のことだ。優秀で敏腕コンサルタントが多く所属する同社で、自分は会社の役に立っていないのでは?という感覚に苦しんだ。そして、もっと英語や、ビジネス感覚を身につけたいと考え、MBA留学を決めた。その後、留学先のノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院での、オプラ・ウィンフリー氏の授業を通じ、彼女の人生観は大きく変化することになる。

 「ケロッグでは、オプラ・ウィンフリーの『リーダーシップ・イン・マネジメント』という授業が大評判でした。私は彼女のことをよく知りませんでしたが、人気があるという理由で自分の持ち点を全て賭けて、クラスを受講しました。」
*注:ケロッグのクラス選択は、自分の持ち点を賭けるビッド制。

 オプラ・ウィンフリーは、アメリカの有名なテレビ番組の司会者で、世界で最も影響力のある黒人女性ともいわれている。

 彼女の非凡なトークと親しみやすいキャラクターで、彼女が持つ『オプラ・ウィンフリーショー(The Oprah Winfrey Show)』は、アメリカのトーク番組史上最高とまで評価された。彼女は、幼少期、虐待されるなどの不遇な時代を過ごしたが、今やフォーブス誌世界長者番付の常連である。「慈善活動に最も貢献している30人(Giving Back 30 list, 2007) 」で1位となり、多くの尊敬を集め、2008年の大統領選では、オプラの推薦がオバマに大量の票を集めたとも言われている。

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 「オプラの授業は、本当に素晴らしいものでした。彼女の情熱の火が大きすぎて、周りにその火が飛び火するという感じ。心の深い部分まで入り込んで揺さぶられました。ラッキーなことに、オプラは卒業式でもスピーチをしてくれて、今でも忘れられないメッセージを受けました。それは―

 『 You have to find your calling(あなた自身の使命を見つけなさい)』

 「オプラは、授業で、それを考えなさいと深く、何度も、何度も、いろんな形で示しました。人間は、大なり小なり世の中の役に立ちたい気持ちがありますよね。誰かに喜んで欲しい、周りの人を幸せにしたい、その上で自分も幸せになりたい。それは仕事だけに限ったことではありません。『自分がどうしたら、世の中に返したり、残したり出来るのか?私自身の“Calling”は何か?』と問いました。今でもずっと、探し続けています。」

 ”CALLING”を直訳すれば、「自分を呼ぶもの」だが、それは、「神のお召し、使命、天職」などという深い意味を持つ言葉である。ケロッグの卒業と共に、新しい価値観が与えられ、彼女の人生は予想しない方向へと舵を切って行った。

3. NYで遭遇した9・11テロ~大きく変わった人生観

 ケロッグで始まったランドバーグさんの使命を探す旅。彼女がケロッグを卒業した年である「2001年」のある日、すさまじい経験を通じて、その思いはさらに加速した。2001年9月11日、そう、あのアメリカ同時多発テロの出来事だ。

 「あの日は、貿易センタービルのわずか2ブロック先で、メリルリンチでの研修をうけていました。ブロードウェイにあるビルの23階で、朝8時頃、突然すごい爆発音が聞こえたのです。窓の外を見ると、目の前が激しく燃えていて、すぐに次の爆発が起きました。

 高いビルから、人が沢山落ちていくショッキングな光景に呆然とする中、『テロだ!』と言う声でハッと気づきました。すぐさま、非常階段で階下まで降り、灰をかぶりながらフェリーでニュージャージーまで避難しました。

 このときに、沢山の人の死を目の当たりにしながら、命というのは、一瞬で消えてしまう程はかないものだと思い知らされました。それまで持っていた自分の価値観や常識が、ひっくり返された気がしました…」

 ランドバーグさんが必死で逃げた時は、リクルートスーツ、ハイヒール、そして、バッグ一つだけだったと言う。究極の状態で、人はその程度しか持ちだすことが出来ないということも思い知らされた。

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しかも、このテロの余波は、事件の日だけに及ばなかった。まもなく景気悪化により、一緒に研修を受けた400人の同期は200人にまで削減されてしまった―。確実だと思っていたものの儚さを思い知った。

 「深い悲しみの中、私は、オプラ・ウィンフリーの言葉を思い出しました。人の命は一瞬で消えてしまう儚いもの。だからこそ、限りある命を最大に生きたい、人や社会に役立つ事は何かをさらに求めたいと思うようになりました。」

さらに、あまりに痛ましいこの事件に遭遇した事によって、ランドバーグさんはあらゆる出来事に動揺しなくなったという。

「日々の仕事において、最悪の事態だと思うようなことが起きたとしても、命まではとられないですからね。」

4. ケロッグで出会った最愛の夫と “子育て”のチームワーク

ケロッグで出会った二人

ケロッグで出会った二人

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 ランドバーグさんはケロッグで出会った、アメリカ人のご主人とご子息の3人暮らしだ。企業の第一線で働く彼女には転勤も、出張もある。家庭との両立はどのようにしているのだろうか?

 「子育てに関しては、夫とすべて話し合って役割分担をしています。グーグルのツールが大活躍ですよ。グーグルカレンダーでスケジュールを共有し、グーグルドキュメントで今期の(家族の)ミッションを共有しています。

 それから、メイドや、ナニー、家庭教師も活用しています。もっと子どもと一緒に過ごしたいという思いもありますが、その半面、私だけと居ても彼は成長しない気がして…。いろんな人に関わって頂きながら、子育てをしています。

 夫は、こんな私を受け入れてくれる、とても寛容な人です。あらゆる面でとても感謝しています。」

 ランドバーグさんは、チームワークを駆使して職務に当たっている。さらに、家庭では旦那様と協力しながらその力を活かしている。夫婦互いの信頼と感謝の気持ち、相手への配慮があるからこそ、家族も仕事も両立できるのであろう。

5. CALLINGを感じる場所で

 最後に、日本人がグローバルな組織で活躍する上で必要なことは何だと思うか、という質問をさせていただいた。

 「日本人は、問題に対して正解を追及する人が多いですね。必ず正解があるはずだから辿り着かなきゃ、といった強迫観念のようなものを感じます。しかし、物事には、正解がひとつでない場合もあるし、正解がない場合もある。もっとフレキシブルに考えたほうが、複雑な問題への解決策が見つかりやすいと思います。」

 リーダーへの階段を駆け上がるランドバーグさん。しかし、彼女は社内で自分をアピールするような動きはまるでないし、興味がないそうだ。そんな彼女を高く評価するグーグルという企業が、彼女の能力をさらに引き出し、だからこそ企業が成長するのだと納得した。

 現在のランドバーグさんにはグーグルという場所が、オプラ・ウィンフリーのいう“CALLING”を感じる場所なのだろう。素晴らしいフィールドを得て、水を得た魚のように活躍するランドバーグさん。ケロッグのコミュニティーを代表する女性リーダーの一人として、日本、そして世界にさらなるインパクトを与えていくだろう。

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取材・文責:ケイティ堀内/H&K グローバル・コネクションズ
グローバル思考の人と組織の魅力を伝えるブランド・プロデュース会社
ランドバーグ史枝 プロフィール
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ランドバーグ史枝(しえ)
Google Inc. グローバルディレクター コンシューマーケア gTech

東京大学(社会学)卒業後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン社に戦略コンサルタントとして入社し、国内外のIT・コンシューマー企業の戦略立案に携わる。1999年にフルブライト奨学生に選抜され、2001年にノースウェスタン大学ケロッグビジネススクールにてMBAを取得後、メリルリンチ日本証券の投資銀行部門に3年間勤務し、M&Aおよびエクイティファイナンスのアドバイザリー業務を行う。

その後、国際結婚を機に2004年より米国シリコンバレーに移住し、現地出版社の戦略部門のシニアディレクターを経て、Eコマースベンチャーのネクスタグ社のシニアプロダクトマネージャー、日本事業責任者(カントリーマネージャー)兼取締役、米国本社の営業統括シニアディレクター等の要職を歴任。2013年夏にグーグルに入社し、同年10月に夫、息子と一緒に日本に帰国し、グーグル株式会社において、APAC地域のパートナーオペレーションを統括する。

2014年にGoogle Great Manager Awardを受賞。現在は米国のグーグル本社において、全世界のコンシューマーケアオペレーションを統括。第19~21回国際女性ビジネス会議に登壇。

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