川上さんは、日本ブーズ・アレン・ハミルトン(株)を経て、1994年にケロッグでMBAを取得。1997年に日本ゼネラル・エレクトリック株式会社に企画開発部長として入社し、2000年に同社取締役に就任。その後2003年にGEメディカルシステム・インターナショナルアジアサービスのセールス&マーケティング担当ゼネラルマネージャーに就任し、GEのヘルスケア事業部門でのキャリアをスタート。2007年に常務取締役営業本部長、2009年に取締役副社長 画像診断機器統括本部長を経て、2011年6月、47歳と言う若さで社長に就任した。若き日にジャック・ウェルチから成果を認められ、“ジュン”と愛称で呼ばれていた、GEの期待の星である。
バウンダリーレス・コラボレーション(境界のない究極的なチームワーク)
~GEとケロッグが共に目指すリーダー像とは
川上さんは、ケロッグで学んだ“チーム”を主体とするリーダーシップ像が、今GEで大変重要な意味を持っていると言う。
GEはもともとジャック・ウェルチ率いる強力なリーダーシップの元で現在の地位を確立してきた企業である。しかしジャック退陣後、会長となったジェフ・イメルトは、トップダウン型のリーダーシップに変化が必要だと感じた。そこで2009年、世界中の社員から30人のメンバーを厳選して、「21世紀のリーダーシップ像」はどうあるべきかを明確に打ち出すためのプロジェクトを立ち上げた。川上さんはこのメンバーの一人として選出された。
メンバーは、世界中の著名な企業、先進的教育をしている大学などの教育施設、軍隊、プロスポーツチームなど担当を分けて訪問し、インタビューやアンケートをして回った。
このとき川上さんが担当したのは北アメリカエリア。ケロッグはその中に含まれており、川上さんにとっては卒業時以来の訪問となった。
「われわれがこのプロジェクトで最終的にたどり着いた解答は、まさにケロッグが目指すリーダーリップ像と同じものでした。情報技術が高度化し、さまざまな国籍の、さまざまなポジションの人たちが、互いの顔も見ずに仕事を進められる現代では、役職や組織上の上下関係による命令系統はうまく働かないのです。多様な人を受け入れ、それぞれが自分の能力を最大限に発揮し、チームとしてパフォーマンスを向上させる“バウンダリーレス・コラボレーション”をいう資質が、これからのリーダーには必要だという結論を得たのです。」
もともとアメリカでは、強い個人が競争しながら全体を統率するリーダーシップ像がモデルとされ、ケロッグが伝統的に重んじてきたチーム・パフォーマンス型リーダーシップは特殊なスタイルとみなされてきた。ところが世界レベルでパラダイムシフトが起きている今、GEはもとより世界の最先端組織において、“ケロッグ流リーダーシップ”が注目されてきたのだ。まさに、ケロッグの教育は世界の一歩先を進んでいたといえよう。
イノベーションを起こす川上流リーダーシップとは
川上さんはどのように、このリーダーシップ像を実践しているのか。
「社長が言ったから、という発想で自分の思考をストップさせてしまってはこれからの企業は生き残れないと思います。きちんと社会のビジョンを自分の目標に落とし込めていれば、自分が判断して動けるようになります。そうすれば、意思決定のスピードがいっそう早くなり、ここに責任感(オーナーシップ)が生まれ、イノベーションが巻き起こるのです。」
GEは100年以上続くテクノロジーの会社であり、その根底にはエジソンのDNA、すなわち、“技術”、“想像力”、そして“変革(イノベーション)”への強い意志があるという。
さらに、川上さんは続けた。
「GEヘルスケア・ジャパンに入社してくる人たちと言うのは、何かしら人の為になりたいという意識を持っています。さらに、優秀で高いポテンシャルを持った人達がアジア全土から集まってくる。経営者の仕事というのは、そんな社員が、正しい事を正しいやり方で努力すれば成功していくしくみを創ることだと考えます。」
GEヘルスケア・ジャパンでいう「正しいこと」とは、「患者さんのために最善を尽くす」ということ。社員全員がその意識を持った上で取り組んで、実績が伴わなかったら、それはすなわち「正しいやり方」をしていないのか、舵取りが間違っているのか、を経営者が判断しなければならない。この川上流リーダーシップはまだスタートしたばかり。何が起きるかこれからが楽しみである。
野球部、ボート部で培った川上流マネジメント
川上さんは、高校時代を野球部、大学時代をボート部で過ごした。スポーツマンとして活躍していた川上さんは、会社経営はボートに似ているところがあるという。
「ボートは、8人が一列に座って互いの顔を見ないで漕いで進む競技です。顔が見えない以上、良い結果が出ないときは、つい誰かがサボっているんじゃないかと疑いたくなる。
ボート競技において、どんなチームが勝つかというと、どんな状況下でもメンバー全員が疑心暗鬼なく、完全に互いを信頼し、各自が自分の持ち場でベストを尽くすというチームなんですよ。」
会社においても、順風満帆なときは良いが、実績が伸び悩むとつい営業を責めたり、マーケティングのせいにしたりと責任を追及したくなるものだ。
では、最高の成果というのは、チーム内の信頼だけで良いのか? 川上さんは自信を持ってこう答えた。
「いえ、決して、個のパフォーマンスを軽視したり、仲良しクラブで良いというわけではないんです。最強のチームワークというのは、“切磋琢磨した強い個人”が前提なんです。」
川上さんが通っていた高校の野球部では、誰かがミスをしても決してドンマイと言ってはいけなかったそうである。ドンマイといったら、同じミスがまた起こることを容認しているのと同じ事で、それはミスをした人の為にもならない。だから、ミスをした人を罵倒すらしろ、それが相手の為にもなる・・・という強いカルチャーがあった。
「私は企業にも、互いに建設的に批判しあう文化が必要であり、それが良い競争をもたらし、個が成長していく、と考えます。さらにいうと、互いの信頼がなかったら、批判なんてできませんからね。」
タフな批判も乗り越えて結果を出してきた川上さんだからこそ、深い意味をもつ言葉である。
Think Bravely(勇気ある思考)~危機をチャンスととらえ世に貢献する
今、日本は先進国の中で少子高齢化が進んでいる。そのスピードはとてつもない速さであり、他の国で100年かかるところ、日本では2~30年で社会構造がすっかり変わってしまうと言う。そんな日本の将来をネガティブに考えるのは容易い。しかし、GEでは、日本を「高齢化ソリューションのリーダー」市場と捕らえ、世界に先駆けて高齢化社会の医療スタイルをビジネスチャンスに変えようとしている。
団塊の世代が一気に高齢者となる近い将来、日本は必ず大学病院や総合病院のキャパシティが不足することになる。地方の診療所ではCTやMRIなどの高価な精密検査機器をそろえられないからだ。GEでは、その問題に対するソリューションのひとつとして、“Vscan(ヴィースキャン)”という商品を打ち出した。
“Vscan”とは、わずか390gのアイフォンのような超音波診断装置で、小さな診療所でもこれがあれば映像による第一次診断検査が可能であり、軽量な往診に持ち出すことも出来る。これが普及すれば、医療の提供スタイルが変わるはずだと川上さんは言う。
「われわれは常に、Market Drivenではなく、Market Drivingを推し進めています。時代の流れに対応するのではなく、われわれが時代を変えていくのです。」
高齢化が世界最速で進む日本において、成功するGEのソリューションは、将来、世界に通用するソリューションとなり得る。ここで、2011年、新たに打ち出されたケロッグのタグラインを思い出す;
“Think Bravely – We believe business can bravely led, passionately collaborative and world changing”
(勇気ある思考~果敢に導き、情熱的なチームを創り、そして、世界を変えていく。)
ケロッグの“Think Bravely”スピリットを実践している川上さんは、GEのDNAを引き継ぎ、独自のビジョン、および、リーダーシップによって、さらなるイノベーションを巻き起こしていくだろう。
ヒト・ブランディングのための国際マーケティング・エージェント
関連サイト
GEヘルスケア・ジャパン 社長挨拶
http://japan.gehealthcare.com/cwcjapan/static/company/info/president.html
GEのイノベーションへの取り組み
http://www.ge.com/jp/company/technology/index.html
Vscan(ヴィースキャン)
http://japan.gehealthcare.com/cwcjapan/static/rad/us/vscan/about/