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未来に対して「YES」と言える日本―謙虚さ、自信、イノベーションそしてロボット

ロバート・ウォルコット
ケロッグ経営大学院 イノベーション&起業論 教授
ケロッグイノベーションネットワーク(KIN)の共同創立者および常任理事

1989年、あるエッセイが日本を席巻した。『NO(ノー)」と言える日本―新日米関係の方策』の主張は、日本はもはや米国の「イエスマン」であるべきではないというものである。日本は世界の強国として名乗りを上げるべきである。

そのエッセイの著者の1人は、日本のスティーブ・ジョブズ、ソニー創業者の盛田昭夫である。ウォークマンは音楽を革命的に変え、ソニーは世界中で認められた家庭用電化製品のリーディングカンパニーとなった。盛田の言葉には、世界をリードする企業を築き上げた実業家として説得力があった。

その後すぐに、日本の経済発展は終焉を迎えた。1990年代は「失われた10年」となり、日本経済はそれ以降、漂流を続けた。日本は現在、どの地点に立っているのか。日本経済は依然として世界の経済大国の1つであり、日本企業は並外れた研究開発能力を維持し、世界に誇る最高品質の製品を生産しているが、かつての活力は戻っていない。

とはいえ、日本は未来のリーダーたり得る信頼できる資質を備えている。過去30年は経済の低迷、高齢化社会、中国や韓国などの隣国の躍進の時代であったにもかかわらず、日本が今もこの立場にあるのは驚くべきことであるように思われる。現在の逆境と過去の遺産はともに、多くの人々、特に日本人が実感している以上に、日本にとって未来につながる資産となっている。

改革への抵抗と目新しいものへのこだわり

日本文化は矛盾に満ちている。企業や政界の序列は硬直化している。女性に権限を与えるのに企業や政界は恥ずべきほどにためらいがちであり、若い世代に機会を与えるという点でもうまくいっていない。逆に、日本人は新技術や新たな行動様式に対して非常に寛容な国民でもある。移民は通常、受け入れないのに(重大な問題)、一方では、日本人は米国のビバップから韓国の「K-POP」まで、世界中の文化を味わい、吸収し、尊敬する。

第二次世界大戦から立ち直って以降、日本人はお互いの、またテクノロジーとの従来と大きく異なる社会交流に寛容さを示してきた。東京の公園でエルビスプレスリーのモノマネをする人たちが集ったり、アニメファンがアニメキャラクターの衣装をまとってパレードに参加したりと、さまざまな状況で、多くの日本人はロールプレイングを楽しんでいる。米国と異なり、こうした活動はコミコンに限定されていない。一年中どこかでイベントが開かれる。

日本では、スマートフォンが誕生するずっと以前に、携帯電話を使い、人とのつながりを求めて公共の場で見知らぬ人を探す光景が見られた。そうした行為はあまりにも周りを殺伐とさせるため、地下鉄車両内での携帯電話の使用を法的に禁止することを主張する当局関係者もいた。

ASIMOPepperなどの人型ロボットがこの島国から誕生したのも偶然ではない。日本は、高齢化社会を体現している国の1つである。それに対する長期的な答えは、高い人件費および製造業者の効率性志向とも相まって、ロボット技術に世界最高水準の投資を行うことであった。

セックス、孤立および人造人間とのセックス

個人間の関係が変化しており、また、伝統的な家族単位が先進諸国では壊れかけているが、日本人は大抵の先進国よりも長くこれらの問題に立ち向かってきた。日本人の若者の多く(主に男性)は仮想環境の下で一日の大半をだらだら過ごしていることが、主に代謝機能の問題から明るみに出ている。そのような若者は引きこもりとして知られ、日本政府は引きこもりが約50万人はいると推定している。それに関連した現象として、性交渉のある若者の割合も減っている。男女間のセックスが減っている一方、日本人は親密さやセックスへのテクノロジーの適用に創造性を発揮している。

人と人との関係、人と能力を増し続けるテクノロジーの産物との関係をテクノロジーがどのようにして変えていくのかという問題に、誰もが今世紀中に直面することになろう。人とロボットとの関係性、あるいはサイボーグ(人と機械のハイブリッド)とサイボーグとの関係性の条件とは何か。良し悪しは別にして、日本では、映画のアバターサロゲートなどのSFの世界は全く現実からかけ離れているというわけではない。社会の調和に格別な価値を置く文化と相まった、テクノロジーに対する日本の実験的冒険的アプローチの示唆するところは、それらのSF映画が豊かなひらめきを与えてくれるということである。

競争優位性としての遺産

日本の伝統美は刹那の美であり、機能美であり、時に難解である。米国人建築家のLouis Sullivanが「形態は機能に従う」と助言するずっと以前に、日本人の匠は、簡潔で、機能的で、調和的な建物、工芸品、作法を創造していた。この美と調和と機能の融合は、テクノロジーの支配がますます強まっている世界で人間性と関係性を維持するのに理想的であると思われる。

どの文化にも言えることだが、遺産は資産と制約の両方を生む。未来(特に計画と社会的責任)を育むのに役立つ可能性が、一部の文化財にあることを正当に評価しない日本人が多い。

良い計画の見込みには、企業の社会的責任というもっと大きな問題が反映されている。世界中の企業の幹部はこの問題に取り組んでいるが、日本企業は数十年間の積み重ねがある。三菱、住友、三井などの日本の一部の大企業は、創業の辞で「企業の目的は、単に財務的価値を創造するだけでなく、社会的価値を創造することにある」と提案している。多くの企業はこの願いを実現できないものの、そのような考えは数十年の間に日本の企業幹部の間に深く根付いてきた。雇用を保証してきた大企業がその約束を反故にして、失業者を乱造したとはいえ、数十年にわたり終身雇用という考えを目に見える形で具体化したのである。

2017年11月、日本の主要企業約1,300社で構成される経団連は、開発は持続可能な社会の下で成り立たなければならないことを標榜した国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現を重視するため、企業行動憲章を改定した。日本では、この従来の考え方をてこに、仕事の目的を見つけようとする思いが前の世代より強いと思われる若者世代にやる気を起こさせて活力を与えることも可能である。

変化の兆し — イノベーションとエクセレンス

一般社団法人Japan Innovation Network (JIN)の共同創立者であり、経済産業省(METI)やイノベーション志向の強いCEOとともに運営するイノベーション100委員会の共同運営者でもある西口尚宏は、「5年前には、ここ日本で、真剣にスタートアップ活動に取り組んでいるという話を聞くことはほとんどなかった」と述べている。「今日、最も保守的な企業でさえ、シリコンバレー、イスラエル、さらにその他の地まで手を伸ばしている。」

シリコンバレーをまねようとする代わりに、日本はその強み(例えば、大企業および中堅企業コミュニティ)を生かすべきであることを、多くの経営者は認識している。富士フィルム、ファナックを始めとした多くの日本企業が研究開発の主力企業であり続ける一方で、日本はあまりにも長い期間、イノベーションを犠牲にして最適化に重きを置いていた。イノベーションおよびオペレーショナル・エクセレンスは長期的な成功にとって不可欠であると認識する会社幹部が増えるにつれ、考え方も変わりつつある。

課題と機会

世界中の企業や国家が直面している課題は、現在の活動をしっかりとこなしながらも、未来を創造することである。

最近、日産やSUBARUから神戸製鋼まで、多くの有名な日本企業が、言い訳ができないほど品質管理に失敗したことを認めている。その結果、自動車部品メーカーのタカタは昨年、破産を宣告した。Wall Street Journalの記事は、「そうした日本のスキャンダルは、日本ブランドが人気を保つことができた理由だけでなく、日本が自らについて抱いている認識の核心を抉り出した」と伝えている。

強欲で罪深い経営陣が核心的な役割を果たしたが、その問題の広がりは、別の原因、つまり自信のなさを暗に示している。最高水準の維持に不安を感じた場合、手っ取り早く財務上の目標を達成しようとする経営陣。そうした態度が、数世代が犠牲をいとわずに創り上げた貴重な「日本ブランド」を破壊したのではないか。

長期にわたって繁栄するには、日本社会は本物の自信が必要であり、私の同僚であるHarry Kraemer教授(グローバルヘルスケア企業バクスター・インターナショナルの元CEO)は、自己認識、内省、謙虚さから何が生まれるかを次のように述べている。「私は何を知っているのかを理解している。私は何を知らないかを理解している。私は学ぶ人であり、毎日、もっと物事を知りたいと努めている。」多くのアジア文化の場合と同様、日本人も謙虚さを美徳と考えている。日本は謙虚さを臆病さと服従ではなく、本物の自信に変えることができるのではないか。

大手広告代理店の博報堂、ブランド・イノベーションデザイン局の宮澤正憲局長は最近の対談の中で、日本人について「弱点を修正するのは得意だが、自分自身の特異性を肯定する習慣がない」と説明している。特異性の中にこそ、差別化した価値が見いだせるのである。

ベストの状態であれば、日本は制約を克服し、エクセレンス、さらに深遠な美さえ生み出す。日本の未来については、優越感や征服感といった誤った自信ではなく、英知、遺産およびグローバルな関与をベースにしたほうがいいのではないか。結局、他の国の多くの人々が直面し始めたばかりの移行期を、日本人はうまく通過する上で、幸先の良いスタートを切ったと言える。

勇気と創造性が、日本人が今、最も必要としているものであるのかもしれない。西口氏が述べたように、「実行するのは、我々日本人にとって好機であり責任である。」世界は、ノーと言える日本ではなく、地球の未来がより良いものとなるよう、イエスと言える日本を必要としている。盛田さんが実際に思い抱いていた使命感は、そうしたものではないか。

著者プロフィール

ロバート・ウォルコット

ロバート・ウォルコット
ケロッグ経営大学院 イノベーション&起業論 教授
ケロッグイノベーションネットワーク(KIN)の共同創立者および常任理事

米国ノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院の教授として起業家精神とイノベーションの教鞭をとる。また、ケロッグ・イノベーション・ネットワーク(KIN)の共同創設者兼事務局長も務める。慶應義塾大学ビジネススクールで客員教授を務めたほか、世界各地のビジネススクールで講演している。政府のアドバイザーを務めると共に、戦略コンサルタントを行うベンチャー企業、クラレオ・パートナーズ社の共同創設者でもある。2013年から3年連続でケロッグ経営大学院EMBAプログラムのTeacher of the Yearに輝いた。

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