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リーダーシップを身近に考える(1)
AKBの大企業化?

岸本 義之
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社 ディレクター・オブ・ストラテジー 早稲田大学 大学院商学研究科 客員教授

リーダーシップという言葉を、日本人は大げさにとらえる傾向があります。カリスマ的な資質を持つ限られた人のもの、というようなイメージです。でも、本来はもっと身近なところにもリーダーシップは存在していますし、努力によって身につけることもできるはずです。本コラムでは、肩のこらない形でリーダーシップ論を考えてみたいと思います。

AKB48で初期メンバーがいつまでも「強い」わけ

AKB48については、いまさら説明は不要でしょう。総選挙と呼ばれる人気投票で上位にきていたメンバーは「神7」(または8)と称されています。

昨年卒業した前田敦子の他に1期の高橋みなみ、板野友美、小島陽菜、1.5期とされる篠田麻里子、2期の大島優子、3期の渡辺麻友、柏木由紀が常に上位を占めてきました。AKB48の4期以降のメンバーによる上位(12-16名の選抜メンバー)入りは、指原莉乃(5期、現HKT48)が二回、佐藤亜美菜(4期)、北原里英(5期)、高城亜樹(6期、現JKT48)、横山由依(9期)が一回ずつあったのみです。つまり、上位のほとんどは3期(2006年12月合格)以前のメンバーが占めていたのです。

AKB48のメジャーデビュー曲「会いたかった」は2006年10月の発売ですから、この頃までに加入していた初期メンバーが、2013年の今になっても中心にいるわけです。その一方で、AKB48のメンバーは既に13期(研究生を含めると14期)にまでわたっています。こうした「後期」メンバーはいつになったら選抜入りできるのでしょうか?

残念ながらそういう日はなかなか来ないでしょう。なぜならば、上位にいる有名な初期メンバーは、CMなどの収入を得るために重要な存在ですから、一気に何人も「卒業」はできないわけです。なので、「上が詰まっている」状態はなかなか解消せず、後期メンバーが知名度を上げるチャンスは限られてしまうわけです。

AKB総選挙の上位メンバーの内訳

  第1回総選挙(2009年) 第2回総選挙(2010年) 第3回総選挙(2011年) 第4回総選挙(2012年)
第1期
(2005年12月) 
1位 前田敦子  2位 前田敦子  1位 前田敦子  6位 高橋みなみ 
5位 高橋みなみ  4位 板野友美  6位 小嶋陽菜  7位 小嶋陽菜 
6位 小嶋陽菜  6位 高橋みなみ  7位 高橋みなみ  8位 板野友美 
7位 板野友美  7位 小嶋陽菜  8位 板野友美  14位 峯岸みなみ 
第1.5期 3位 篠田麻里子  3位 篠田麻里子  4位 篠田麻里子  5位 篠田麻里子 
第2期
(2006年4月) 
2位 大島優子  1位 大島優子  2位 大島優子  1位 大島優子 
10位 河西智美  9位 宮澤佐江  11位 宮澤佐江  11位 宮澤佐江 
11位 小野恵令奈  12位 河西智美      12位 河西智美 
12位 秋元才加          16位 梅田彩佳 
第3期
(2006年12月)
4位 渡辺麻友  5位 渡辺麻友  3位 柏木由紀  2位 渡辺麻友 
9位 柏木由紀  8位 柏木由紀  5位 渡辺麻友  3位 柏木由紀 
第4期以降  8位   佐藤亜美菜
(第4期)

    

   
  
9位 指原莉乃
(第5期)
4位 指原莉乃
(第5期)
12位  高城亜樹
(第6期)
  
13位 北原里英
(第5期)
15位 横山由依
(第9期)

注:SKE48メンバー(松井珠理奈、松井玲奈:ともにSKE48の第1期)は含んでいない

それにも増して問題なのは、AKB48が有名になった後に、このグループに入ることを目的としてオーディションを受験してきたのが、後期メンバーだということです。初期メンバーの多くは、インタビューで「AKBをステップとして、将来は○○になりたい」というコメントを残していましたが、これは後期メンバーとは明らかに違う目標設定です。

AKB48に合格した時点で目標を達成してしまった後期メンバーは、上位メンバーを追い抜き、追い越そうという闘志(?)を燃やす必要は感じていないでしょう。それに対して、初期メンバーは、知名度のない時点でAKB48に加入し、自分たちが基盤を築いてきたという自負を持っているわけですから、後期メンバーに追い越させることにはならないでしょう。

リーダーシップは経験しないと身につかない

こうやって見てみると、AKB48は日本の大企業に似ているような気がしてきます。初期メンバーは、海のものとも山のものともつかない組織に加入し、その中でヒットを出すことのできた組織は知名度が上昇します。そして、有名になった組織にはフォロワー気質のメンバーが大量に加入するわけです。フォロワー気質のメンバーは、その組織に加入できたことで目標を達成しており、その組織内で上位のメンバーを追い越そうとはしません。

初期メンバーは、加入した時点でチャレンジ精神を持っていた人たちですが、加入後も重要な役割を担わざるをえないため、その中で成功体験を得るチャンスが多くあります。そうした体験が自信につながり、自信のある言動が周囲のメンバーに好影響を与え、リーダーシップが形成されていくわけです。
 
 一方の後期メンバーは、もともとチャレンジ精神がやや希薄な人たちですが、加入後も成功体験を得る機会がなかなか回ってこないため、第一線に立てるだけの体験を踏むには相当の年数を重ねることになります。その間に「下積み」的な役割(上の人に従う、前例を踏襲する)を長く経験するわけですから、生来のフォロワー気質がより強化されてしまうわけです。

中学や高校の部活動では、学校を卒業するという形で先輩メンバーが強制的に毎年脱退するので、最上級生の立場にすぐ立つことができます。しかし、AKB48の上位メンバーはなかなか卒業できません。ましてや大企業の上位メンバーは60歳を超えても卒業してくれません。

下積みばかりをずっと経験していたら、どんなに資質があったとしても、リーダーシップを形成することは難しいですよね。アイドルユニットでセンターもしくは最前列に立つということは、他のメンバーを引っ張るだけでなく、ライブ会場の観客全員を引っ張っていくという役割なわけですから、これも立派なリーダーシップなのです。AKB48では、じゃんけん選抜、派生ユニット参加、別ユニットへの移籍など、いろいろな「人事異動」で経験を積ませようという意図も垣間見えます。

このように、AKB48を見ていてわかることは、リーダーシップの必要条件の中には、チャレンジ精神と、早いうちの成功体験とが含まれているだろうということです。これだけで十分というわけではないのですが、これが欠けていてはいけないのです。

次回は、ドラえもんのジャイアンをもとに、リーダーシップ形成について考えてみたいと思います。

 

岸本義之さんによるコラムは、次回も続きます。お楽しみに!

著者プロフィール
伊藤武志

岸本 義之(きしもと よしゆき)
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社 ディレクター・オブ・ストラテジー
早稲田大学 大学院商学研究科 客員教授

[主な経歴・業績]
1986年 東京大学経済学部卒、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン入社。’91年からKellogg (ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院)に留学しMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(PhD取得)を経て現職。20年以上にわたって、戦略や組織に関わるコンサルティング・プロジェクトを多数行ってきた。著書に『メディア・マーケティング進化論』(PHP研究所)、『金融マーケティング戦略』(ダイヤモンド社)など。

[関連サイト]
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社
http://www.booz.com/jp/home/about/leadership/yoshiyuki_kishimoto

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