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リーダーシップを身近に考える (4)
「和をもって尊しとなす」ではダメなのか?

岸本 義之
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社 ディレクター・オブ・ストラテジー 早稲田大学 大学院商学研究科 客員教授
日本的経営がもてはやされていた時代、「終身雇用」「年功序列」には、社員の関与度を高める効用があるとされていました。いまでも生産現場などのカイゼン活動にはそうしたメリットが活きているようです。一方、日本の大企業でリーダーシップの強い人物がなかなか登場しないのは、日本的経営のデメリットの方が働いているからかもしれません。

「リーダーを育てる」というノウハウがない

今年に入ってから、大阪の公立高校や女子柔道などでの体罰問題に関して、大きな反響が起こりました。識者と呼ばれる人たちがさまざまなコメントを述べていたのですが、私はちょっと別の感想を持ちました。結局のところ、日本のスポーツ界においては、指導者を指導するノウハウが全くなかったのではないか、ということです。中学や高校の運動部の多くは、先輩に言われたことをそのまま守り、後輩にそのまま押し付けるだけです。監督や部長という人々も、自分が学生時代に先輩や監督から言われたことをそのまま押し付けている人が多いのではないでしょうか。

「名選手は必ずしも名監督にはならない」とプロ野球の世界では言われているようですが、それでも監督の多くはかつてのスター選手ですし、指導法をちゃんと学んだという気配が感じられません。評論家としてバックネット裏から多くのチームを見たという経験が付加された程度でしょう。チームを指導し、統率する方法論をなんら身に付けていない人が、監督として機能するものなのでしょうか。

プロの世界ならば、選手の自覚も高いでしょうから選手が勝手に努力するかもしれません。しかし、アマの世界では、指導の方法論をきちんと身に付けていないと、根性論だけではチームを統率できません。そうした未熟な指導者が根性論を昇華させてしまうから、体罰に行きつくのではないでしょうか。

この問題は、日本の大企業にもそのまま当てはまります。「リーダーを育てる」という方法論を身に付けている指導者が社内にいるでしょうか。上司が部下に行う人事考課の中に「リーダーシップ」という項目は入っているでしょうか。その項目を評価する基準として何が明示されているでしょうか。上司が部下に対してどのような指示や指導を行えば「リーダーシップ」が育成できるのか、という共通理解は社内にあるでしょうか。

AKB48の回で見たとおり、ただでさえ、日本の大企業はフォロワー気質の社員を集めてしまう傾向にあります。またジャイアンの回で見たとおり、(入社後に成功体験を積む機会が少ないので)リーダーシップの有無は入社前に決まっていると見なされがちです。加えて、今の大企業では若手社員の下積み年数が長期化し、前例や上司に従うというフォロワー気質がさらに強化されます。そんな中、指導の方法論を身に付けないままに、肩書が付いたら威張り始めるという内弁慶な上司は、体罰教師と相似形なのではないでしょうか。

コンフリクトを避けようとする

「終身雇用」「年功序列」のカルチャーの中では、「和をもって尊しとなす」ことが美徳となります。しかし、このことが企業変革を妨げ、リーダーの出現を阻んでいます。前にも見たように、ビジネスにおける自信とは、自ら問題を解決したという成功体験によって身につくことが多いのですが、その問題解決においては、旧来のやり方を打破しなければならない局面も必ずあるはずです。

我々の米国人の同僚が書いた「ザ・ライト・ファイト」という本があるのですが、この本の趣旨は、「正しい戦いを選択して、正しい戦い方を行う」ことが組織の変革に重要というものです。米国の大企業ではCEOが無茶な変革を無理やり行おうとして、無用な戦いを部下に強いることが多いのですが、だからと言って何でも協調する路線に転換するのではなく、むしろ戦い方を正しく定義しようというのです。日本の大企業の社員は、「戦う」こと自体に違和感を覚えるかもしれません。なにしろ「和をもって尊しとなす」ことを重要視しているのですから、わざわざコンフリクトを引き起こすなんて、もってのほかです。

ライト・ファイトの6つの原則

ライト・ファイトの6つの原則

右肩上がりで追い風に恵まれている企業においては、コンフリクトを起こしてまで、仕事のやり方を変える必要はありません。昭和時代の大企業はまさにそうだったのでしょう。その時代に入社してきた社員が今の経営層ですから、役員世代にコンフリクトを好まない人が多いのもうなずけます。その世代の人々は、リーダー育成の方法論を学ぶことなく部下と接してきたのですから、部下世代もまた、コンフリクト回避型に育っていることでしょう。

ビジネスにおけるリーダーシップが、ビジネス上の問題を解決したという成功体験と、それに基づく自信によって形成されるとするならば、ビジネス上の問題を解決する手法を身に付けることがまず重要です。ビジネススクールで学ぶような分析手法はまさにこのためにあります。しかし、それを自分の会社の中で実行しようとすると、何かしらのコンフリクトに直面することになります。それが「正しい戦い」であるならば、回避することなく戦うべきですし、その場合には「正しい戦い方」をとるべきです。

例えば、日産自動車では、ゴーン氏の着任以降、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)による問題解決をさまざまな分野で行ってきました。CFTは既存のライン組織に「チャレンジする」役割を負っていて、課長レベルの中堅社員がリーダーとしてゴーン氏に直接報告を行うのです。その報告に対してライン組織の側からは「その解決策を実行するには、○○という課題がある」という反論が起こるわけですが、ゴーン氏から「だったらその○○をライン組織で解決しろ」という指示が飛び、ライン組織内のプロジェクトチーム(V-UPチーム)が結成されます。このようにコンフリクトを表面化させ、解決するという仕組みこそが、「正しい戦い方」なのです。

全社的な課題をいきなり若手に解決させるのは難しいとしても、部内の問題くらいは、若手でチームを組んで解決にあたらせるべきです。問題解決のルールをきめ、部長がレフェリー役となって、部員に「チャレンジ」を促すのです。そうした活動の中から、主体的な行動力と問題解決力を併せ持つ人材を発掘し、その人材に次なるテーマを与えていくのです。上司の側がそうした方法論を理解していなければ、いつまでたっても次世代リーダーは生まれてこないでしょう。

 

 次回は、最終回として、「リーダーシップの身に付け方」について考えてみたいと思います。

著者プロフィール
伊藤武志

岸本 義之(きしもと よしゆき)
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社 ディレクター・オブ・ストラテジー
早稲田大学 大学院商学研究科 客員教授

[主な経歴・業績]
1986年 東京大学経済学部卒、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン入社。’91年からKellogg (ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院)に留学しMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(PhD取得)を経て現職。20年以上にわたって、戦略や組織に関わるコンサルティング・プロジェクトを多数行ってきた。著書に『メディア・マーケティング進化論』(PHP研究所)、『金融マーケティング戦略』(ダイヤモンド社)など。

[関連サイト]
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社
http://www.booz.com/jp/home/about/leadership/yoshiyuki_kishimoto
ザ・ライト・ファイトの紹介
http://www.booz.com/media/file/mj20_02.pdf

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