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リーダーシップを身近に考える (2)
ジャイアンはリーダーか?

岸本 義之
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社 ディレクター・オブ・ストラテジー 早稲田大学 大学院商学研究科 客員教授

リーダーシップというのは生まれながらの資質なのではないか、と日本人はとらえる傾向があるようです。たしかに、子供の世界にもリーダー的な役割を果たす子と、フォロワー的な子がいるように見えます。しかし、そうしたリーダー格の子供が、将来成長してビジネス界のリーダーになるものなのでしょうか。むしろ、ビジネスに必要なリーダーシップは、ビジネスの世界に入ってからの方が身につくものなのではないでしょうか。

ジャイアンはなぜリーダーなのか

ドラえもんは1970年から雑誌(小学館の『小学一年生』など)に連載が始まったマンガです。私自身は、ドラえもんが連載開始された頃まさに小学一年生だったのですが、当時はジャイアンのようなガキ大将キャラの子供が普通に存在していました(今は、ああいう子供はいないんでしょうか)。そのジャイアンこと剛田武は、運動は得意ですが勉強は大の苦手で、わがままで乱暴ではあるものの、いつも周りの子供たちを従わせています。

では、なぜジャイアンは周りの子供たちを従わせることができているのでしょう。当たり前ですが、誰かが何かの権限を与えたわけではありません。親が実力者というわけでもなさそうです(両親は雑貨店を営んでいるという設定)。答えは単純で、「力が強い」からです。少なくとも昭和時代の子供は、けんかをすることがあり、けんかをすれば勝つという子供は、それだけで周りの子供を従わせることができたわけです。

ただ、「力が強い」だけでリーダーシップを発揮できるわけではないでしょう。実際に周りの子供をむりやり従わせることに何度も成功したために、それが自信となって言動に表れているのかもしれません。小学生のころからこうした自信を積み重ねていると、「リーダーシップのある資質」を持つ人物に育っていくのでしょう。

また、運動能力の高い子供は、中学や高校で運動部のキャプテンになることも多いでしょう。キャプテンは、部員同士で選ばれるか、顧問の先生に任命されるかですが、その競技において「強い選手」であることが重要な要件です。チームが試合に勝つためには、「強い選手」が中心になることが自然だからです。最も「強い選手」があまりに人望がない場合などは、その「強い選手」に意見をできる人物がキャプテンになることもあります。キャプテンという役割を与えられると、その役割(による権限)に基づいて部員を従わせることも可能になりますから、リーダーとしての経験をさらに積むことができます。

ジャイアンは勉強が苦手という設定ですが、大企業の中にも体育会系の人材を好んで採用するところはあります。子供のころから自信を身に付け、中学・高校でさらにキャプテンとしての経験を積んだ人物が、入社時点の評価で「リーダーシップがある」と見なされ、その後も管理職に登用されるということは、ありうる話です。

ビジネスのリーダーシップは別物?

もし、リーダーシップは先天的な資質であるとするならば、企業のリーダーはジャイアン型人物だらけということになってしまいます。さすがにそれではまずいでしょう。前回のAKB48の話でも触れたことですが、リーダーシップの形成には(その組織や職務における)「早いうちの成功体験」という要素が重要です。子供のころにガキ大将だったとか、中学・高校でキャプテンだったというと、たしかに「早いうちの成功体験」には違いありません。しかし、ビジネスとは全く無関係の成功体験なので、間違った方向に組織を導いてしまう危険性があります。先輩のやり方を踏襲するだけで、「もっと頑張れ」「気合が足りないんだ」みたいなことしか言えない人物がビジネスのリーダーでは困りますよね。

ではビジネスの成功体験とは何でしょうか。それは端的に言うと「難しい問題を解決した経験」でしょう。誰でも売れるような(競争力のある)商品を人より多く売っただけでは、あまり成功体験とは言えません。一方、自社商品の売れない理由を突き止め、それを解決する方法を思いつき、周囲を巻き込んで、その解決を実現できたとしたら、その人は別の種類の問題に直面しても、自信を持って問題解決に取り組めるようになるでしょう。
 
 ビジネスの世界は問題の宝庫です。大小さまざまな問題が複雑に絡み合っています。特に現代のビジネスにおいては、様々な環境条件(顧客ニーズ、競合、技術など)が変化しているため、昔ながらのやり方を墨守しているだけではジリ貧になってしまいます。何が問題なのかを見極め、その問題を解決するという経験を若いころにできた人物は、早めに自信をつけることができ、他の人よりも積極的に問題解決にチャレンジするようになり、周囲も一目置く存在になるでしょう。

リーダーシップ形成パターンの違い

では、現代の日本の大企業で、若いうちから問題解決にあたれるチャンスというのは、どのくらいあるのでしょうか。戦後すぐの大企業のように旧役員層がパージされてしまったような場合は、若手でも問題解決に当たらざるを得ませんでした。また、高度成長期に海外子会社に送り込まれたり、新規事業部門に回されたりした場合なども、前例がないために自分たちでいちいち問題解決策を考えなければなりませんでした。逆に、1990年代以降の「失われた20年」の間に入社した世代(その初期に入社した人は既に40歳近くになっています)は、かなり長い間、自分の部署に後輩が配属されなかったために、下積み的な役割が染み付いてしまっている危険性があります。

どんなに有能な人材でも、下積みばかりをずっと経験していたら、フォロワー体質が身についてしまいます。日本の大企業の多くは抜擢人事を好まないので、若い世代には横並びで全員下積みを長く経験させることになりがちです。部署の長が意識的に若手に問題解決の経験を積ませようとしてくれればよいのですが、どこの部署でも最若手の社員は、雑用(言われたことを言われたとおりにやる仕事)に追われるばかりです。

入社後20年くらい経って、同期が全員管理職への昇進の適齢期になったとしましょう。しかし、入社後に問題解決の成功体験を積んで自信を身に付けた人がほとんどいない状況で、リーダーシップのありそうな人物を選ぶと、結局、体育会的な人になってしまうかもしれません。ジャイアン型リーダーが評価され、その中からさらに親分肌の役員が登用されてしまうわけです。

次回は、外資系企業を題材に、問題解決の経験とリーダーシップ形成について考えてみたいと思います。

著者プロフィール
伊藤武志

岸本 義之(きしもと よしゆき)
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社 ディレクター・オブ・ストラテジー
早稲田大学 大学院商学研究科 客員教授

[主な経歴・業績]
1986年 東京大学経済学部卒、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン入社。’91年からKellogg (ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院)に留学しMBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(PhD取得)を経て現職。20年以上にわたって、戦略や組織に関わるコンサルティング・プロジェクトを多数行ってきた。著書に『メディア・マーケティング進化論』(PHP研究所)、『金融マーケティング戦略』(ダイヤモンド社)など。

[関連サイト]
ブーズ・アンド・カンパニー株式会社
http://www.booz.com/jp/home/about/leadership/yoshiyuki_kishimoto

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