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宮澤正憲

ブランディングはどこへ行くのか
~第3回 ブランディングは簡単か?

宮澤 正憲
博報堂ブランドデザイン リーダー

みなさんは“ブランディング”と聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか?

私が卒業したノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院は、特にマーケティング分野で有名で、卒業後にマーケティング関連のビジネスに携わる人が多数います。そんなケロッグの卒業生と同様に、私も、ブランドコンサルティングという領域を専業として仕事をしています。

そんな私から見た最近のブランディングについて連載しています。
前回までで、共創型の「オープン・ブランディング」の時代が到来していることを解説しました。このオープン・ブランディングでは、企業と生活者が対等な関係になって、一緒にビジネスを考えていくことがカギになります。そのためには、顧客と企業が本当の意味でフラットな関係にならなくてはいけません。

これだけ聞くと、「なあんだ、そんなことか」と思うかもしれません。
ところがこの「共創型」の概念は頭で理解できても、実践するのは容易ではありません。なぜなら、ここには従来のビジネスルールを根本から変えるくらい、大きなシステムチェンジが含まれているからです。

顧客は敵? 知らず知らずのうちにしみ込んでいる対立概念

 普段、仕事をしていると、「今度の戦略は、若者をメインの攻略ターゲットに設定しよう」などという会話がよく聞こえてきます。こうした戦略、戦術、セグメンテーション、ターゲット、といったビジネスシーンで普通に使っている言葉の多くが、実は戦争用語に由来しています。言い換えると、顧客は攻略する対象であり、企業と顧客は対立概念であるという暗黙の意識が存在しているのです。

共創型時代を迎えた今、これは大いに気になるところです。顧客は一緒に事業を大きくしてくれる“仲間”であったとしても、攻略すべき“敵”であるはずはありません。しかし、多くの既存ビジネス手法は、こうした無意識の対立概念を前提に組み立てられているのです。戦略やターゲットという戦争用語を一切使わないでビジネス会話をしてみると、意外と難しいことに気づくと思います。それだけ、私たちの頭の中には「企業VS顧客」という対立概念がしみ込んでいる証拠とも言えるでしょう。

「共創型オープン・ブランディング」は、従来の「戦争型マーケティング」とは対極にあります。たかが言葉使いでと思われるかもしれません。しかし、戦争用語を多用しながら一方で顧客と共創しようとしても、説得力がないと思いませんか?。

こうした「戦争型マーケティング」から「共創型オープン・ブランディング」への変化を、私たちは、呼び名を変えて「狩猟型ブランディング」から「農耕型ブランディング」へ、と表すこともあります。生活者に消費を促すことが以前よりも難しくなり、いち早く狩り場を発見して効率よく狩りをするような、従来のビジネスのやり方は行き詰まりを迎えています。逆に、土壌や育てる作物を見極め、周囲の協力を得ながら時間をかけて大きな収穫を狙う、農耕のようなスタイルが求められているのです。

この二つのスタイルは、着地点は同じでも、考え方が根本的に異なっています。実際、顧客を巻き込もうと生活者と共同で商品開発をしたり、マス広告の代わりにSNSを使ってみたりした企業は少なくないですが、思った以上の効果が出ていないケースが多く見られます。本質的には旧来の姿勢のままなのに、表面上だけソーシャルメディアを取り入れたり、商売っ気満々のままブランドコミュニティをつくったりしても、その狙いは今の生活者にはすぐに見透かされてしまうからです。

まずは、社内が共創型であること

ブランド 講演会にて

また、生活者と共創しようとするのであれば、それ以前に自社内の組織がオープンで共創型になっている必要があります。部門間の垣根や上下関係がなく交流が頻繁な企業であれば、オープン・ブランディングはそれほど難しくないでしょう。ただ、そうでない企業にとって、共創型プロセスの導入は容易ではありません。社内では縦割り組織の傾向が強いのに、生活者とだけフラットに共創を進めようとしてもうまくいくはずがありません。

さらには、社員がどのくらい自社に愛着心があるかも重要です。共創型になるということは、社外の人たちにも社員と同じようにそのブランドを好きになってもらうことでもあります。そもそも、社員が自分の会社や自社ブランドをそんなに好きでないような企業のことを、外部の人が好きになるはずがありません。

逆に、最近評価が高くなっている企業ブランドを見ると、社員の愛社精神が高かったり、社風がユニークなどの特徴があることがわかります。組織風土と対外的なブランド力は、密接な関係を持っているのです。

対等な関係とは、何でもかんでも聞くことではない

さらに、オープン・ブランディングには、もう一つポイントがあります。
企業と生活者が対等な関係を築くことは重要なのですが、企業が意志をなくして、なんでもかんでも生活者の意見を聞けばいい、というわけではありません。そこには、もう一つ忘れてはいけない大切なものがあるのです。

それは、企業が目指すビジョン、つまり「志」です。

ここ数年、ブランディングという名のもとに、将来のビジョンや成長戦略をどう描くかについて企業から相談を受けるケースが増えてきました。ブランディングにおいては、未来をどうとらえ、中長期的なブランドビジョンをどう設定するかは重要な作業の一つです。

ところが、このビジョンをつくる作業は容易ではありません。なぜなら、ビジネスの効率向上やリスク回避の視点ならば、さまざまなフレームワークや分析スキルが確立されており、ある程度の知識と経験でカバーすることが可能です。しかし、実は、成長戦略の描き方には、こうすれば絶対うまくいくという定石がないからなのです。

ブランディングとは「志」の提示と「仲間集め」

先行き不透明な現在の社会環境や経済状況において、単に過去の延長線をいくら延ばしても、そこに未来は見えてきません。そんな環境下で判断の拠り所になるのは、精緻な分析や解析ではなく、企業をこうしたい、生活をこう変えたい、社会がもっとこうあって欲しい、という主体的な強い「志」なのです。そして魅力ある「志」があるからこそ、そこに共感する人々が集まり、応援しようとする。その結果、企業と生活者のパワーが、実際に新しい未来をつくり出していく……、そんな好循環が生まれます。

私は、これが共創型であるオープン・ブランディングの本質的なメカニズムだと考えています。

平たく言えば、オープン・ブランディングとは、企業側が高い志をもってワクワクするような夢やビジョンを提示し、そこに共感する仲間を集めてくる、そういった作業です。あるいは、社会的な「仲間集め」の行為だと表せるかもしれません。

これは単に、例えば商品のネーミングを一般から公募するといった、表層的な生活者巻き込み型の手法ではありません。オープン・ブランディングは、組織風土、企業活動のプロセス、将来ビジョンなど、企業の存在自体に深く関わるさまざまな要素を包含した手法であり、企業から生活者へ一方向的にビジネスが展開されてきた既存システムへの大きな挑戦でもあります。だからこそ、達成するにはじっくり腰を据えて取り組む必要があるのです。

会社(=COMPANY)という言葉は、COM(一緒)とPAN(パン=食事)からきており、同じ目的で募った運命共同体という意味が語源だそうです。それが最近の企業には、必ずしも運命共同体的な色彩はありません。しかし今また原点に回帰し、会社は、仲間集めという行為を通じて、真のカンパニーになれるか、ということが問われているように感じます。

多彩なバックグラウンドを持つ博報堂ブランドデザインのメンバー

 

リーダーシップなくして、共創型オープン・ブランディングは進まない

志の高いビジョンを掲げ、その志に賛同した仲間を集めて共に進んでいくオープン・ブランディングは、既存にあるビジネスルールの変更を余儀なくさせます。

生活者と一体になるためには、企業は、手法を変え、プロセスを変え、コミュニケーションを変えなくてはいけません。こうした活動は全社的な活動であり、単なるビジネステクニックではカバーできません。そのため、オープン・ブランディングは、全社を率いることができるほど強力で、かつ社内外において共創的な姿勢を育めるような、新しいリーダーシップなくしては達成できないともいえます。

従来のようなトップダウン型のリーダーシップではなく、自ら高い志を持ちつつもそれを固持せず、周囲のメンバーや生活者、さらには社会の声を良く聞き、調和をはかっていく。オープン・ブランディングには、そんなふうに、生活者と対等な関係になれる新しいリーダーシップが求められます。ケロッグ経営大学院では、「コラボレーション型リーダー」というリーダー像を提唱していますが、まさしくこうしたスタイルを持つ次世代型リーダーを指していると私は思います。

次回、最終回は、ブランディングと「しあわせ」についてです。

著者プロフィール
宮澤正憲

宮澤 正憲
博報堂ブランドデザイン リーダー

[主な経歴・業績]
1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。
(株)博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など 多様な業種の企画立案業務に従事。
2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、 次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。
現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。 成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。

[主な著書]
「「応援したくなる企業」の時代」(アスキー・メディアワークス)
「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)
「だから最強チームは「キャンプ」を使う」(共著、インプレスジャパン)
「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)
「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)
など多数。

[関連サイト]
博報堂ブランドデザイン ウェブサイト http://www.h-branddesign.com/
博報堂ブランドデザイン フェイスブック https://www.facebook.com/h.branddesign
博報堂ブランドデザイン ツイッタ- https://twitter.com/hakuhodoBD
東京大学×博報堂ブランドデザインスタジオ http://www.bdstudio.komex.c.u-tokyo.ac.jp/
宮澤 正憲 (ツイッタ-) https://twitter.com/m_and_my

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